「白詰草<シロツメクサ>」パク・シウン×「みんなキムチ」演出家の“復讐”最強タッグが再び集結した「逆境の魔女~シークレット・タウン~」が本日6月17日(水)よりレンタルDVDリリース!
本作の日本語版字幕(共訳)を担当した山岸由佳さんがドラマをたっぷり楽しむための見どころを解説します!
人と人がつながることの温もり
韓国語に“トッセ”という言葉があります。ある土地に昔から住んでいる者が新参者をないがしろにすることを意味し、「あの地域はトッセがきつい」といった使い方をされます。
「逆境の魔女~シークレット・タウン~」の舞台はソウル郊外の小さな農村“クンタリ”。アメリカで養子として育ったソン・ボミはある事件に巻き込まれ、養子縁組届に書いてあったクンタリにたどり着きます。村人は事情や風習も知らず立ち入ってくるボミに「よそ者が口出しするな」「いつ村を出るんだ」と冷たく言い放つも、ボミは自身の生い立ちを探るためクンタリにとどまることに。人手不足の農作業を手伝い一緒にご飯を食べて、ひとたび“トッセ”の壁を越えると、もう家族も同然なのが韓国らしいところです。
圧巻の長回し乱闘シーン!
農村の四季の描写がふんだんに盛り込まれている本作。架空の村に臨場感を出すため、ボミと村人たちの出会いのシーンは、カットをせずにカメラを回し続ける“長回し”の技法で撮影されました。延べ15名の役者陣とヤギ3頭が登場し、髪を引っつかんでの大乱闘。白菜が飛び、蒸し鶏料理が飛び、英語のセリフも飛び交い、一度フレームアウトした人が再び映った時には小麦粉まみれの乱れ髪。セリフの数は121個で、途中で誰かがNGを出せばイチから撮り直しとなるわけです。入念なリハーサルを重ねて臨んだ本番1発目、ハーブ農園のオーナー・スホ役のキム・ホジンがあまりの面白さに笑いをこらえ切れずNGに。衣装メイクを全部やり直したとか。
完成したシーンの長さは約7分で、これは長回しで有名な数々の名作映画と同レベル。30分強のドラマの4分の1近い分量をワンテイクで撮り上げたというから、役者も監督もツワモノです。キャラそれぞれの細やかな演技が秀逸なアンサンブルに仕上がっていますので、ぜひとも画面でご確認を!
癒やし系コメディとドロドロ復讐劇の共存!
ボミの生い立ちが明らかになるにつれ、物語は策略と復讐の攻防戦に突入。過去の秘密を守るため、あらゆる手段で邪魔者たちを窮地に陥れるのは、大企業の大株主で32年前にボミを捨てた継母スンジャと、自己チュー娘のナビ。ナビの夫・ジャンスは元カノのボミとスンジャ&ナビの間で裏切りを繰り返し…。諦めることを知らない悪役たちの予測不能な非道ぶりはむしろカタルシスを感じてしまうほど。
出生の秘密・不倫・記憶喪失、果ては殺人まで犯す鉄板愛憎劇を、癒やしと笑いで包み込み次世代ジャンルに昇華させたのは、韓ドラ史上に残る名場面“キムチビンタ”を生んだ朝ドラの名作「みんなキムチ」(2014)のキム・フンドン監督。マクチャン(非現実的で、あり得ない展開の)ドラマを見尽くしている韓国の視聴者をも「マクチャンすぎる!」と驚嘆させた「愛してたみたい~すべてを奪
われた女~」(2012)のパク・シウンを再びヒロインにキャスティングしました。ボミの心の支えとなるスホ役のキム・ホジンと、継母スンジャ役のイ・ボヒもキム・ドンフン演出の経験者=「みんなキムチ」ファミリーというわけで、マクチャンドラマ・ファンの渇望を満たすこと間違いナシ!
“親とは何か”~散りばめられたメッセージ性!
劇中、養子として育ったボミは、認知症の祖父と暮らすダスン・ダシク姉弟の母親代わりになっていきます。実はボミ役のパク・シウンさん、夫である俳優チン・テヒョンさんと共にクリスチャンで、児童養護施設でのボランティアやチャリティー活動に熱心な韓国芸能界きってのおしどり夫婦として有名です。本作が韓国で放送中だった2019年秋、チン&パク夫婦は施設での活動で交流を深めてきた大学生を養子に迎えたことをSNSで発表しました。正式に娘となったセヨンさんは以前からSNSで“心でつながった家族”と紹介していた子でした。“養子・継母との葛藤・育児放棄・育ての親”といったシチュエーションで女優パク・シウンが魂から紡ぎ出し、“逆境の魔女”へと変貌していく演技に胸を締めつけられます。
韓国人を毎朝元気にさせた主題歌「クンタリシャバラ」
主題歌は1996年に韓国で一世を風靡したダンス・デュオ“クローン”の大ヒット曲「クンタリシャバラ」。日本でも活動する5人組男性アイドルグループ“IMFACT”がカバーし、パワフルなダンスとラップに爽やかさがプラスされています。“クンタリシャバラ”は韓国人にとって暗く沈んだ気持ちを吹き飛ばして踊り出したくなる魔法の呪文のような存在です。歌詞を抜粋すると「誰にでも思いどおりにならない時がある。そんな時は海へ行って叫んでみろ。クンタリシャバラ・バババ。喜び、悲しみ、挫折と勇気、出会いと別れを分かち合い、そうして生きていくんだ。明日は再び訪れるから」。
韓国経済が順調だった1996年の翌年、IMF経済危機が起こり、韓国は倒産・失業による貧富格差の拡大と雇用不安に直面しました。そんな背景もあり「クンタリシャバラ」は元気を与えてくれる国民的応援ソングとして愛され続けているのです。
人と触れ合う暮らしがいかに温かいものだったのかを世界中の誰もが実感している昨今、逆境にあるボミとクンタリの村人たちの密接な距離感は心底羨ましく、また懐かしい気持ちにさせてくれます。ジャンル超越・癒やしの復讐エンタメ「逆境の魔女~シークレット・タウン~」でスッキリ爽やかな毎日を!
執筆:山岸由佳(「逆境の魔女~シークレット・タウン~」字幕共訳者/韓国在住)