韓国が誇る名優ソル・ギョングと『パラサイト 半地下の家族』のイ・ソンギュンが共演し、第58回百想芸術大賞で最優秀男性演技賞、監督賞、男性助演賞の3冠受賞を果たした『キングメーカー 大統領を作った男』が、ついに日本公開!
最高権力の座をめざして政治家同士が激突し、負ければ汚職など不正行為を問われて刑務所入りになることもある韓国の大統領選。本作は日本とも縁の深い第15代韓国大統領、金大中(キム・デジュン)と彼の選挙参謀だった厳昌録(オム・チャンノク)の実話を基に、『名もなき野良犬の輪舞』のビョン・ソンヒョン監督が苛烈な大統領選の裏側を赤裸々に描いた衝撃作。劇中、光の当たる表の存在として民衆の希望となるカリスマ政治家キム・ウンボムを演じたソル・ギョング。そして同じ理想を追いかけながらも、影の存在として裏の仕事を引き受けるソ・チャンデを演じたイ・ソンギュン。韓国映画界を代表する実力派俳優が、誰よりもお互いを必要としながらも、決定的なところで混じり合わない2人の複雑な関係を熱演した。
8月12日の日本公開後、SNS上には「すごく面白かった!政治の話だから難しいかと思ったけれど、ぐいぐい惹き込まれた」「ソル・ギョングとイ・ソンギュン、2人の演技のぶつかり合いに痺れる!ブロマンス最高」「計算された照明とカメラワークによる光と影の演出が素晴らしい」と絶賛の声が多数あがっており、口コミも期待できるスタートとなりました。
そして、本作公開を記念し、8月13日(土)シネマート新宿にてトーイベントを実施!
当選率99パーセントを約束する、敏腕選挙コンサルタントを主人公に日本の選挙の裏側を描き話題となり、映像化もされた小説『当確師』(光文社文庫)の著者・真山仁さんと映画評論家の松崎健夫さんをゲストに迎え、本作をより深く楽しむための解説が盛りだくさんのトークを繰り広げました。
この日の東京は、台風が近づくあいにくの天気だったが、劇場には多くのお客様が来場し、大きな拍手に迎えられ、真山仁さん、松崎健夫さんが登壇。真山さんは「お盆で台風が来ているし、6人くらいのお客様を前にトークをやるのかなと思っていたら、このように大勢の方がいらっしゃって」と驚きつつ、まずは本作について「選挙の小説を書き始めて、もう4、5年になるのですが、正直素晴らしすぎて恥ずかしくなるくらい良い映画でした。最初、本作が金大中(キム・デジュン)さんのことであることを知らないで見進めていたら、途中から気づいて、韓国独特の問題をはらみながら選挙の面白さと怖さがよく出ていましたね。政治に関心があるから面白いのではなくて、本作はどこまでも人間の夢をどう追うか、夢のために何を犠牲にするかがちゃんと描かれていて、だからこそ面白いし、だからこそ選挙というものが面白いんだなと思いました」と感想を熱弁。さらに「韓国はお隣の国ですが、知っているようで知らないことがたくさんあって、ともすると偏見みたいなものが先にたちますが、日本人は理屈でないところで感じ取れることがあると思う。日本のことを思うためには韓国映画を観るのがいいなといつも思っているのですが、日本の選挙や政治を考えるには、議員全員に見せたい映画ですよね」とコメント。
続いて松崎さんが劇中のセリフを挙げ、「アリストテレスの“正義こそが社会の秩序だ“。対してその師匠のプラトンの“正しい目的のためなら手段は不問だ”。この二つの言葉は、本作のテーマをすごく良くついていると思うのですが」と問うと、真山さんは「政治家の人は必ず大義や正義を口にする。ウソではないのだが、そのために手段を選ぶか選ばないかで勝ち負けがでる。政治に善悪はなく、勝ち負けしかない、と取材時によく聞きますが、その大義を手にするためには、まず政治家になることが大事なんだ、となるんです。間違ってはいないのだけど、有権者の立場から考えるとどうかと思いますよね」と答え、「マックス・ウェーバーの著書には、政治は暴力だ。暴力を管理するために政治家がいる、とあります。多くの人は民主主義が政治だと思っているけれど、民主主義は暴力を鎮圧したあとにしかできない。この作品を見ているとよくわかります」と解説。松崎さんが「善悪が灰色で、より黒でなければ選挙のためにはいいのではないか、ということかもしれませんが、実際の韓国大統領選や大統領になった人たちの人生を見ると、因果応報というか、真っ当に人生を終わった方がいない」と指摘すると、「だいたい逮捕されるか、自殺するか、あるいは暗殺されるか。実際、この間退任したばかりの文在寅さんを除くと、金大中さんだけが大統領になって逮捕されていない。でも実は過去に拉致されて、その後死刑判決も受けているので、ある意味全員国家権力に拘束されている。それだけ、韓国における大統領の権力がすごいということ」と韓国で取材も行っている真山さんから本作の背景にかかわる色々な解説が続いた。
また、本作でイ・ソンギュンが演じた「影」といわれ表には出ない選挙参謀については、「日本にも選挙プロデューサー業をやっている人はいます。まさにああいう存在で、自分が担ぐ人のために人もお金も用意するが、自分は下がって栄光を手にしない、影の存在がプロデューサー」と真山さん。「でも人って成功すると俺がやった、っていいたくなるところ。劇中それを殺して自分の夢を託した彼(チャンデ)はがんばっていたと思う。しかし人間の欲望として、いや俺のおかげだろう、手を汚さないボスはずるい人と思い始めるもの。イ・ソンギュンはその「影」の存在である人間の機微をものすごく上手く演じていたと思う。見ていると気の毒で気の毒で仕方がなかった(笑)」とすっかり感情移入したそうだ。
一方、ソル・ギョングについては、これまでも力道山から殺人鬼まで幅広い役柄を演じてきた名優だが、松崎さんからの「大統領の風格が見えたのがすごい」という言葉を受け、真山さんも「政治家って言葉は信用できないのに、なぜかこの人が演説をすると信じてしまう、というのがあるのですが、それを全部出してました。ひとたび民衆の前に立って発言すると人を惹きつける。このまま大統領選に出ればいいのに!」と絶賛。さらに「これまでの彼の出演作では、あまり知的な役柄のイメージがなくて、自分の感性と本能で生きる人だったが、ここまで懐の深い得体の知れなさを出せるというのは…この人は本当に怪物です!」と俳優ソル・ギョングの凄さで盛り上がった。
さらに、選挙をテーマにした『当確師』『当確師 十二歳の革命』の小説を執筆されている真山さんからみて、本作の描写はどう感じたかを問われると「ひとつは韓国の国民性、国民の政治に対する関心度があきらかに韓国のほうが強烈で、強烈なところのほうが仕掛けがしやすい面がある。日本の場合は、ずっと誰がなっても一緒だ、選挙には行かないし、与党に協力したほうが得だし、という状況で、そこから波を起こすことはかなり大変。小説の中で一番やらなきゃいけないことは、波を起こすこと。楽勝の人に危機感を与えて、突然自分がピンチになって慌てふためくところにチャンスがある、ということをやらなければならないんです。この『キングメーカー』の場合は、もう選挙自体が大変なので、この政治環境は羨ましいなと思いました」と率直な思いを語る。
その一方で「もう一つ大事なのは、選挙って当選が終わりではない、政治家はそこから始まるわけです。ですので、よくあるネガティブキャンペーンをやると、結果的にそれで勝った人というのは、本当に汚い手で政治家になったよね、とあまり期待されなくなるもの。どうやって勝ったか、というのが意外に大事」と解説。そして現在「小説宝石」で三作目を連載中とのことで、「それが与党の総裁選の話。映画でも総裁選の場面がでてきますが、ヒリヒリするなぁと。でも私はこれを見てしまった以上、私はこの手法を使えないんだ、観なきゃよかったと思いました(笑)」と意外な話も。すると松崎さんから小説『当確師』より、「傲慢な人が、自分を傲慢だと自覚できないのと一緒で、誠実な人も自覚なんてしません。だからこそ誠実な人柄が輝くんです」という、松崎さんが読んでドキッとした一節が紹介されると、真山さんは「いいこと言ってますね~」と返す一幕も。
最後に真山さんは、「近年、政治に無関心ではいられなくなっている。為替が安くなり、遠い国だけれど戦争が起きたり、国内不安があったりすると、それを変えられるのは残念ながらやはり政治。自分たちもちょっとだけ政治に関心をもたなければ、という時は来ている。そういう意味でも良いタイミングの映画だと思います」と熱く語り、本作のトークイベントが締めくくられた。
監督:ビョン・ソンヒョン『名もなき野良犬の輪舞』
出演:ソル・ギョング『茲山魚譜 チャサンオボ』
イ・ソンギュン『パラサイト 半地下の家族』
ユ・ジェミョン「梨泰院クラス」
チョ・ウジン『SEOBOK/ソボク』
2021年/韓国/123分/5.1ch/ビスタ/原題:킹메이커/字幕翻訳:小寺由香/提供:ツイン、Hulu/配給:ツイン
公式サイト:kingmaker-movie.com
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8月12日(金)シネマート新宿 ほか 全国順次ロードショー!