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2021年9月17日10時00分 金曜日 【合同インタビュー】映画『偽りの隣人 ある諜報員の告白』イ・ファンギョン監督~大切なのは“温かい心を伝えることができる俳優たちのアンサンブル”、心が温かくて人柄のいい俳優は「映画の中でとてもきれいな花を咲かせることができる」

韓国歴代興収10位を記録し、日本でも大ヒットした『7番房の奇跡』のイ・ファンギョン監督による待望の最新作『偽りの隣人 ある諜報員の告白』が2021年9月17日(金)より、シネマート新宿ほかにて全国ロードショーとなる。

『偽りの隣人 ある諜報員の告白』(以下、『偽りの隣人』)は、1985年、軍事政権下の韓国で民主化を求め自宅軟禁された政治家と監視する諜報員の物語。
自宅軟禁される野党政治家イ・ウィシクをオ・ダルス、その隣家に住み込み、監視を続ける諜報員のリーダー ユ・デグォンをチョン・ウが演じている。
緊迫した状況下の中で、次第に心を通い合わせていく2人の様子が見事に描かれ、イ・ファンギョン監督ならではのコメディ要素もふんだんに盛り込まれている今作。キム・ヒウォン、キム・ビョンチョル、ヨム・ヘランなど、脇を固める俳優陣も、個性的なキャラクターを高い演技力で演じ、作品の魅力を高めている。

この『偽りの隣人』の公開を前に、8月某日、イ・ファンギョン監督がオンライン合同インタビューに答えてくれた。

【合同インタビュー】『偽りの隣人 ある諜報員の告白』イ・ファンギョン監督

※一部、作品の内容に関する部分があります
―『偽りの隣人 ある諜報員の告白』を作ろうと思ったきっかけを教えてください。モチーフになった実際の事件などはあったのでしょうか?
韓国の映画ファンは、一次元的な話、例えば一般的な男女の恋愛物語やホラー映画、スリラーなども好きなんですが、一方では、少し政治的傾向を帯びた映画も好んで観る傾向があります。
ですから、まず私の映画では、ヒューマンドラマを見せたい、その中にコメディを盛り込みたい、それをノーマルに伝えるのではなく、メッセージ性を込めた物語を作れないだろうか、という思いで、計画したのが始まりでした。
事件については、1973年に起きた金大中氏の誘拐事件がモチーフとしてありました。モチーフではあったんですが、その話をそのままドキュメンタリー的に映画にしたわけではありません。その事件の中にとても面白い、興味深い要素もたくさんありましたので、その事件を素材にして、別の物話を作りました。

―『偽りの隣人』は、軍事政権下の韓国を描いた社会派ヒューマンサスペンスでありながら、監督ならではの温かみがあふれる作品になっていますが、人の心の温かさを感じるように意識して作られたのでしょうか?また、特にこだわった点を教えてください。
まず何よりも大切なのは、キャスティングだと思いました。温かい心を伝えることができる俳優さんたちのアンサンブルが最も重要で、そのアンサンブルを通じて、その時代、1985年に戻ったように見せるためにも、美術セットにもこだわりました。

―チョン・ウさんは『あいつはカッコよかった』(2004年)以来、2度目のキャスティングとなりますが、キャスティングした理由、チョン・ウさんの俳優としての魅力を教えてください。
チョン・ウさんは2004年の「あいつはカッコよかった」で、私がオーディションをして、俳優としてデビューさせました。彼に会った時、「この人はとても面白くて、一般的に言うと“一般的ではない”人だな」と思いました。そのくらい猪突猛進で、アイディアも豊富な方でした。ですから、新人にもかかわらず、助演クラスの大きな役をお任せしました。
その後もずっとチョン・ウさんとはたくさんの話をして、とても親しくなって、一緒に食事をしたり、お酒も飲んだりしながら、その間もこの人に合う役柄は何だろうと悩んでいました。そして今回『偽りの隣人』の主人公にぴったりなんじゃないかと思いました。
チョン・ウさんのいちばんの長所は、“スポンジ”と言いましょうか。赤い絵の具を投げれば、すぐ赤くなって、黄色い絵の具を投げれば、すぐ黄色になる、すぐに吸収するスポンジのような俳優です。何かひとつ投げかけると、すぐにフィードバックして、感情を入れて難易度の高い演技も見事にこなしてくれる素敵な俳優さんです。

―オ・ダルスさんをキャスティングした理由を教えてください。
前作の『7番房の奇跡』という映画で、オ・ダルスさんとご一緒しました。そこで、組織暴力団員の役で出演しましたよね。そしてこれまでオ・ダルスさんは、コミカルで、軽くて、誰かを裏切ったり、詐欺師だったり、そういった役をたくさんしてきました。そういう役柄を演じるオ・ダルスさんも悪くはないんですが、オ・ダルスさんの新たな姿を見せることができる役柄があればいいと思っていました。
そして今回、大統領の役を一度やってみてほしいと思いがわき上がって、他の方が思いつかないような、監督としての意地というか、絶対やってほしい、きっと新しい姿を見せてくれるだろう、という強い気持ちがあり、やっていただきました。
オ・ダルスさんに今までにない他の役をやってほしいという思いにぴったり合うと思いましたし、絶対に上手くやってくれると信じていましたし、周りの方も支持してくれる方が多かったので、最終的にイ・ウィシクの役をお願いしました。
―撮影中の印象に残っているエピソードはありますか?
オ・ダルスさんは韓国のお酒“マッコリ”が大好きなんです。1日も欠かさず、俳優たちとマッコリを飲みながら、今日撮影した場面で残念だった点、そして明日の撮影はどうするか、という話をしていました。また、制作会社の代表とも1日も欠かさずマッコリを飲みながら話していた姿が、とても記憶に残っています。そういう風に毎日毎日撮影現場ですごしていましたので、お酒の席での楽しい姿も、映画の中に溶け込んでいると思います。
実はオ・ダルスさんは、シリアスな演技をしていても、すぐに笑ってしまう方なので、笑うのを我慢するということもよくありました。それくらい楽しい演技をたくさん見せてくださったんですが、シリアスな役だったので、少し楽しいところを抑えた感があります。

―『偽りの隣人』は、テーマが政治的で重たいものですが、コミカルなシーンも多い作品になっています。政治的な部分とコミカルな部分のバランスを取るために重要視した部分はどこですか?
確かに、政治的な話は重くなりがちではあります。私の映画の特性上、どんなに重いテーマであっても、観客のみなさんが映画を観た時に、とても気楽に、温かい気持ちで楽しくアプローチできるような作品にしようというのが、いつも悩んでいる部分です。しかしながら、政治的な問題の特徴のひとつとして、妙な緊張感があり、アイロニーが漂っているものが多いような気がします。でも、私はそのような部分をそのまま出してドキュメンタリーにするのではなく、自分の視点を入れて、自分の長所であると思っているヒューマンドラマやコメディで、そういったアイロニーに気楽に入っていけるように素材として使ったら、新しい面白い物語にできるんではないかという思いがとてもありました。今回も両者のバランスを取るのがとても大切だったんですが、考えてみると、政治的な部分とヒューマンドラマ、コメディの部分が半分半分ではなく、6:4、7:3の割合でヒューマンドラマ、コメディの部分が多かったのではないかと思いますし、そうなるように努力しました。

―食事のシーンが印象的ですが、食事のシーンを多く盛り込んだ意図は何ですか?
『偽りの隣人』の主人公たちは、政治家を監視する盗聴要員ですよね。ですから、それだけを見ると、非常にぞっとするし、恐ろしくて、政治的な物語として、もっと踏み込めるとは思ったんですが、できればそういう風に見えなければいいな、という思いが大きかったです。ですから、人間の基本的な欲求、美味しいものを食べて、排泄して、そういう姿から感じられる人の情というものをナチュラルに見せられればと思って、食事のシーンをたくさん盛り込みました。
食事は根本的なことですし、トイレのシーンも何度か出てきますが、トイレのシーンを見せることによって、人間の本来の姿を2人の主人公を通してお見せしたかったんです。

―とても素敵なシーンがたくさんありますが、監督自身が気に入っているシーン、思い入れの強いシーンを教えてください。
俳優たちのアンサンブルがとても優れていた別名“かくれんぼ”というシーンがあります。部屋の中でヨム・ヘランさんとキム・ビョンチョルさんなど3人の俳優さんたちが、片方が隠れるともう片方が出てくる、またもう片方が出てくると、もう片方が隠れる、というかくれんぼのシ―ンがとても記憶に残っています。その場面を撮影するために、俳優さんたちと何日も練習をしたことを覚えています。
それ以外でいちばん記憶に残っていて、私にとってもベスト名場面のひとつだと思っているのは、エンディングのシーンです。オ・ダルスさんとチョン・ウさんが銭湯で再会して、「食事はしましたか?」と問いかける場面が、私にとってはベストともいえる名シーンのひとつです。

―『偽りの隣人』は、監督が少年時代を過ごした1985年を再現した作品になっていますが、再現するにあたり、大変だったこと、ワクワクしたことを教えてください。
1985年当時は、私は中学生時代だったので、その時に流行っていた音楽、美術には特に神経を使いました。中でも音楽については、検閲がすごかった記憶があります。今考えると、理解できないような状況で検閲されていたりしました。劇中で使った『くるくる(빙글빙글:ピングルピングル)』という歌は、85年頃に韓国ではとても流行った歌で、今回そのまま使ってみましたが、『くるくる』が禁止曲になった最大の理由が、どうしてずっとくるくる回っているんだ、そんな風にくるくる回って、人を惑わしている、歌詞にそういう部分があるので、禁止曲になったと聞きました。これは当時でも理解できませんでしたが、今考えてもなおさら理解できないことだと思います。本当に皮肉で、ある意味コメディかと思えるような、笑える話でもありますが、そういったことが85年頃にはたくさんありましたよね。ですから、当時を思い出すと、楽しいこともありますが、もどかしいような気持ちにもなります。観客の方にも、あの頃はそうだったな、と思い出のように感じながら、映画を観ていただけばいいな、と思います。

―前作の『7番房の奇跡』同様、『偽りの隣人』でも劇中の登場人物の名前が、監督の家族や知人のお名前になっていますが、周りの方のお名前を役名にする理由、それによってどのようなメリットがあるのか教えてください。
『7番房の奇跡』では、イェスンが私の娘の名前です。そしてリュ・スンリョンさんが演じたヨングという名前は、私の親友の名前です。そして『偽りの隣人』では、オ・ダルスさんが演じたイ・ウィシクは父の名前で、その奥さんのク・ヨンジャは母の名前、息子のイェジュンは、私の2番目の息子の名前です。主人公のチョン・ウさんが演じたユ・デグォンも私のとても仲の良い幼なじみの名前です。
このように名前を付けるメリットですが、実際にシナリオやキャラクターを作る時に、名前を付けるのはとても大変な作業なんです。ですから、私が気楽に呼べるような人たち、私の頭の中でキャラクターがいちばん動いてくれそうな人たちとなると、どうしても周りの方たちの名前を使うことになってしまいます。内容自体も家族についての物語が多いので、不思議と家族の名前を多く使うようになります。家族の名前を使うと、「家族の方はさぞかし喜ぶでしょうね」と記者の方がおっしゃってくださるんですが、家族はあまり喜んではいません(笑)。自分の名前が出てくるのはうれしくないみたいなんですが、私は無理にでも使いたいと思っています。私になじみのある名前を付けることによって、いい作品が生まれると思うからです。私の近くにいる家族たちもそれが癒しになって、楽しみになってくれたらいいな、という思いで付けています。そんな気持ちで、作ったいい映画が、たくさんの観客のみなさんに伝わって、息を合わせることができるという信念があるので、いい映画を作るために、周りの人たちの名前を懸けて作ろうという気持ちがあり、それがクセになってしまいました。
今回、父の名前を大統領役に使ったんですが、それは父も喜んでくれて、感謝していると言ってくれました。
―今回ご両親、お子様たちの名前を全部使いましたが、今後はどうされるんでしょうか?
だから悩んでいるんです(笑)。今度は妻側の家族たちの名前を借りようかなと思っています。

―『偽りの隣人』でもオ・ダルスさん、チョン・ウさんなど、とても演技力の高い俳優さんがキャスティングされていますが、これからこの人と映画を撮ってみたい、という俳優さんはいますか?
特定の方というよりは、これまでご一緒した俳優さんたちは、みなさん才気にあふれて、演技が達者な方たちですので、これからも一緒に撮りたいと思っています。そしてそれにプラスして、これからご一緒したい俳優さんは、心が温かくて人柄のいい方、そういう方は実際に映画の中でも素敵な姿を表現できると思います。私の映画は、常にヒューマン、感動、コメディの部分をお見せする映画なので、そういう俳優さんが元々持っているいい人柄がいい役割をして、映画の中でとてもきれいな花を咲かせることができるだろうと思っています。
ですから、人柄が良くて、心が温かく、やさしい、そういう俳優さんとこれから撮っていきたいです。

―コロナ禍で劇場も制限されている状況ですが、『偽りの隣人』を通して、日本の観客に伝えたいことは何ですか?
とても残念だったのは、韓国で公開した当時も、ソーシャルディスタンスを守らなくてはいけなくて、座席の距離を置いたりしていたので、観客がひとりで観ながら声に出して笑うと、横の方に失礼になるのではないかと思って、こうして口を押さえて観ていたようです。もちろんマスクをしながら映画を観るので、涙を流すような場面でも、気楽に泣きながら観ることができませんでした。私の映画を観る時は、観客はみんなで息を合わせながら観るのがいいと思うので、そのような部分が残念でした。
日本でも、劇場で観ていただく観客のみなさんは、少しでも誰かと一緒に息を合わせて観ることができたらいいなと思っています。
この映画作る時、制作会社の代表と私が同じ考えだったのが、このような状況で、世の中が断絶しているような状況なので、以前のように一緒に手をつないで映画を観られるような世界に早く戻ってほしいという気持ちで、この作品を企画しました。そのような意味でも、『偽りの隣人』は、このパンデミックの状況を乗り越えていけるようないい映画なのではないかと思っています。ですから、『偽りの隣人』を観て、私たちの横には本当に自分を思ってくれる隣人がいるんだな、また自分が頼ることができる人がいるんだな、と思いながら、コロナの状況を克服していただけたらいいなと思います。
そして今また、日本ではパラリンピックが開催されていますよね。その方々の素晴らしい意志と一生懸命がんばっている姿を称えつつ、『偽りの隣人』も観ていただいて、本当に幸せな2時間を過ごしていただけたらうれしいです。

キャスティングをする上でも人柄を重視すると語ったイ・ファンギョン監督。登場人物に家族の名前を付けるなど、作品を観ても監督の人柄の良さがわかるが、インタビューの最後でも、記者に向けて「またお会いする時は“お食事しましたか?”を合言葉にしましょう」と親しみとユーモアのある言葉を贈ってくれた。
コロナ禍が続く状況だが、『偽りの隣人』を観て、自分の横にいる人と呼吸を合わせる瞬間を楽しんでほしい。監督が伝えたかったメッセージが心に響く、ぜひ観てほしいおすすめ映画の1本である。

『偽りの隣人 ある諜報員の告白』
<STORY>
1985年、国家による弾圧が激しさを増す中、次期大統領選に出馬するため帰国した野党政治家イ・ウィシク(オ・ダルス)は空港に到着するなり国家安全政策部により逮捕され、自宅軟禁を余儀なくされた。諜報機関はウィシクを監視するため、当時左遷されていたものの愛国心だけは人一倍強いユ・デグォン(チョン・ウ)を監視チームのリーダーに抜擢。デグォンは隣家に住み込み、24時間体制の監視任務に就くことになった。機密情報を入手するため盗聴器を仕掛けたデグォンだったが、家族を愛し、国民の平和と平等を真に願うウィシクの声を聞き続けるうちに、上層部に疑問を持ち始める。そんな矢先ウィシクとその家族に命の危険が迫っていた―。

監督:イ・ファンギョン(『7番房の奇跡』)
出演:チョン・ウ(『王の預言書』『善惡の刃』)、オ・ダルス(『国際市場で逢いましょう』)
2020年/韓国/韓国語/130分/シネスコ/5.1ch/原題:이웃사촌/英題:BEST FRIEND/日本語字幕:安河内真純/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム
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公式HP:itsuwari-rinjin.com
2021年9月17日(金)より、シネマート新宿 ほか全国公開

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