韓国で2016年に刊行され、トルコ、ベトナム、タイ、インドネシアで翻訳されるなど世界中で親しまれているメッセージ集『BLONOTE』。BTSの公式Twitterでも紹介されたことによる「BTS効果」もさることながら、その鋭いメッセージ性に心を掴まれる人が続出。発売直後から大きな話題となり、重版も決定した。
本書は、韓国のヒップホップグループ「EPIK HIGH(エピックハイ)」のタブロが、自身のラジオ番組のエンディングで、リスナーに贈った言葉をまとめたメッセージ集。短いながらも本質を突く言葉の数々に、「これは自分のことではないのか」という共感の声が続出している。
そしてこのたびタブロのオフィシャルインタビューが到着!
―深夜ラジオ番組の最後に小さな言葉を付け加えていたのは、何か理由があったんでしょうか?
このラジオ番組は夜10時~12時に放送されていて、放送が終わる頃には多くの人が一日を終えるような時間帯でした。ですから「ラジオを聴いているリスナーが寝る前にいろんなことを考えてくれるといいな」と個人的に思っていたんです。番組の最後に一言添えることで、素敵なことを考えてくれたり、自分の人生に対して考えを巡らしてくれたらな、って。こんなに多くの方達が共感してくれるとは思っていなかったし、当初は本にすることも全然考えていませんでした。でも何年続けるうちに、いろんな方がいろんなところでその言葉に触れてくれたり、手書きに文字にしてくれる中で、「まとまった本として手元に置きたい」という要望も出てきたんですよね。それでこういう形になりました。
―具体的にどんな反響が、ご自身の記憶に残っていますか?
本の中には手書きの文字がありますよね。芸能人やアーティストの方、映画『オールドボーイ』のパク・チャヌク監督などにも書いていただいたものなんですが、この文字があることによって、僕自身について描いた僕の言葉が「これは私の話なんじゃないか」という共感がわいてくる部分があったと思います。そういう共感、声が僕のもとにとどいたものですね。
―「BLONOTE」の中で一番気に入っている言葉は?それを思いついた時のエピソードなども併せて教えてください。
「空が教えてくれるのは、泣きたい気持ちはあなただけじゃない」という言葉は、僕がよく考えていることなんですよね。「今日は本当に泣きたい気持ちだ」と思っているときに、雨が降ってくることがあるんです。韓国には雨が降ることを「空が泣いている」と表現することがあり、雨が降ると「泣きたいのは自分だけじゃないんだな」と感じる人も多いんですよね。雨が降ると鬱になる、寂しく感じるという人もいると思いますが、僕は慰められる気がします。
―それぞれの方に、気に入った言葉を選んでもらったんでしょうか?
前もって僕が選んだ言葉を3つ4つ送り、その中で自分の気持ちに近いものを選んでもらいました。そこに彼らの答えがあったと思っています。例えばパク・チャノク監督が選んだもの「」なんかは、映画監督だからこそ響いたものなのだろうなと思いました。クォン・ジヨン(「BIG BANG」G-DRAGON)さんには、最初からひとつしか渡しませんでした。これは、彼の文字で見ることで、この言葉がより深堀りしてもらえるんじゃないかなと思って。
―タブロさんは何か好きな作品などありますか。
「文豪ストレイドッグ」が好きです。日本のカルチャーは子供のころから好きで、大学時代にはアジア文学を副先行で、日本、韓国、中国のさまざまな文学や映画に触れていましたので、なじみがあります。
―タブロさんの書く言葉は、必ずしもポジティブなものばかりではありませんよね。例えば自分の中のネガティブな感情を文字にすることで、救われることもあるのでしょうか。
僕も結局は誰かに話したいんですよね。でも必ずしもいつも話せる環境にないから、作品によって表現しているところあるんですよね。書き出すことによって癒されるっていう部分もあります。
―ネガティブなものを作品という形に昇華するときには、何か意識していることはありますか?
「周りの人がして欲しくないと思うことはしないようにはしよう」とは思っていますが、作品において、あえてポジティブな方向に持っていくとか、美しいものに包むようなことは僕はしないですね。世の中には、いいこともいい人もいいものをたくさん存在しますが、そういう部分ばかりではないじゃないですか。ダークなものも、見たくない現実も存在しますよね。それを「世の中って素晴らしいよね」という形で作り込む事は、逆にしないというところですかね。
―インスピレーションの源泉はなんですか?「BLONOTE」には「ただ降ってくる」とありましたが?
そうですね、源泉があるというよりは、文字を書かないと苦しいし、何かを作らずにはいられない、身体が持たないっていう感じなんです。病気になります。生きる理由がないかもしれません。
―「進みたい道、進むべき道、今進むべき道、全部違うんだけどどうしよう」という言葉も印象的でした。これについて今のタブロさんはどうでしょうか?
正直言うと、これを書いた時とそれほど変わらず、今もそんな感じです。音楽をこんなに長く続けると思わなかったし、こんなに有名になると思わなかったし、今でも「今日したいこと」が1日の間に20回ぐらい変わります。僕はちゃんと生きているんだろうか、この行き方でいいんだろうかっていうのも常に悩んでいますし、いつも自分の中で放浪しているような感じです。でも今となってみればそのさまようことが、僕が生きていく中でやらなければいけないことなのかなと思います。
―自分の道がわからない人、もしくは最初の質問を見つけるためには、どうすればいいと思いますか?
「道が見つからない」「自分に問うべき質問がわからない」という人達の99.9%は、他の人のことを気にしすぎているんだと思います。人間は常に他人に干渉したり、他人の反応をみたりしますよね。人に口を出してしまうし、他人の顔色を伺ってしまうし、「あなたはこうしなきゃいけない」「これが正解だ」という人の言葉に従ってしまう。そこに惑わされてしまうと不幸になるし、自分の答えを見つけられなくなると思います。
さらに面白いのは、人間って幸せがこの世に「ひとつ」しかないと思ってるところがあるんですよ。「私の幸せ」と「他人の幸せ」は全くの別物なのに、まるで世の中には幸せっていうものが「ひとつ」しかなくて、他人が幸せだと自分の幸せが減ってしまうような感覚に囚われているんです。つまり「誰かが幸せになれば、他の人たちは残されたものを分け合うしかない」というような。そんな風に考えたら、他人の幸せは自分の不幸であるような気持ちになってしまいますよね。でもその人にはその人の幸せがあるし、自分には自分の幸せがあるんですよね。
だから幸せになるには、他人の様子をうかがわず、自分の人生のみに忠実に生きることです。そうすればもっと自由になれるし、心を痛めたり迷ったりすることも減って、表現できることや、やりたいことの選択肢が広がってゆくと思います。難しいことだと思うし、できないことと言う人もいるかもしれませんが、他人の目を気にしないし、他人に口出しもしない。そうすれば世の中もっと良くなると思います。
(完)
タブロ氏といえば、その繊細で文学的な歌詞に、BTSのRM、SUGAをはじめ多くのアーティストが影響を受けたことでも知られている。世界最高峰の音楽の祭典・グラミー賞に2年連続でノミネートされたBTSのまさに「源流」とも言うべき、感性の高さをぜひ体感してみて。