<祖国の記録>を取り戻すため、祖国への想いを胸に、命がけのレースに挑むマラソン選手たちの真実に基づく衝撃と感動のヒューマンエンターテインメント『ボストン1947』が8月30日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開となる。
監督は、全世界で熱狂を巻き起こした『シュリ』、『ブラザーフッド』のカン・ジェギュ。壮大なスケールで重厚なヒューマンドラマを描いてきた名匠が、スポットの当たることが少なかった祖国解放から朝鮮戦争の間の時代の真実に迫る。韓国で伝説の人となった金メダル選手ソン・ギジョンを演じるのは、韓国のトップ俳優ハ・ジョンウ。ボストンで走る若手選手ソ・ユンボクには、アイドルグループZE:Aの一員で、俳優としても大活躍のイム・シワン。本格的な訓練を受けて体脂肪を6%まで落とし、マラソン選手としてのリアルな肉体を作り上げた。さらに、ベルリンで銅メダルを獲得したナム・スンニョンに千の顔を持つ俳優として知られるぺ・ソンウが、ソ・ユンボクに想いを寄せるオクリムにパク・ウンビンが扮している。
この公開に先立ち、プロモーションのために来日したカン・ジェギュ監督が、8月某日、韓流Mpostのインタビュー(一部単独)に答えてくれた。
―ハ・ジョンウさん、イム・シワンさん、ペ・ソンウさんのキャスティングが素晴らしく、それぞれがその時代のジレンマを上手に表現されていたと思います。監督から見て「すごいな!」と思った部分はありますか?
本作は実話に基づいていて、登場人物も実在の人物ですし、それも1人だけではなく3人ということで、リアリティーや事実ということが非常に大切だと考えました。ですから、それぞれの俳優を決めること、そしてその俳優たちが歴史上の人物とどのくらい一体感を持つのか、ということがとても重要ですよね。それでキャスティングも、実在の人物とよく似ていて、キャラクターを消化できる俳優を選ぶことがとても重要だったんですが、苦労した分、上手くいったのではないかと思います。俳優の方々も、100%以上その人物像を体現して、その人物を上手く表現してくれたと思います。
例えばソン・ギジョンさんの場合は、生前の様々な姿を見ながら、その話し方、表情、そして歩き方まで、ハ・ジョンウさんがとても小さなディテールまでも見逃さないように、多くの努力をしていたようです。
イム・シワンさんの場合も、ソ・ユンボク選手と体つきが似ているという身体的な条件もありキャスティングしましたが、ご本人もものすごく努力をしていました。実際に体脂肪率を6%まで落とすということは、一般の人にしてみたら、並み大抵のことではないので、それぐらい大変な努力をしてくれた結果だと思います。
―ハ・ジョンウさんからのラブコールもありイム・シワンさんに白羽の矢が立ったとお聞きしましたが、事実でしょうか?
事実ではありません。イム・シワンさんは、私がソ・ユンボクさんにいちばん似た人物を探す過程で発見をしたということもありますし、“イム・シワン”という俳優については、『ミセン-未生-』や『名もなき野良犬の輪舞』のようなドラマ・映画を通して、とても好感を持って見ていたので、それで今回、“ソ・ユンボク”という人物に外見的にも本当に合致する条件を持ち合わせていたので、お願いすることにしました。
ただ、ハ・ジョンウさんがソ・ユンボクさん役に何人かの候補を挙げてくれていて、その中の1人にイム・シワンさんがいたというのは事実です。
―実在の人物を主人公にするにあたり、かなりリサーチされたと伺いましたが、その過程で、監督自身が新たに発見されたことや驚いたことがあったら教えてください。
ソン・ギジョンさんに関しては、伝記などを通じて、よく知られているので、新しく、全く知らなかった事実を発見するのはなかなか難しいことです。これは特別なことではないんですが、ベルリンオリンピックに出て金メダルをもらう時、胸に付けていた日章旗(日本の国旗)を植木鉢で隠して、友人に送ったハガキに「悲しい」と書いたという話はよく知られていますが、そんなふうに心情を吐露した本人が、実は太極旗(韓国の国旗)を見たことがなかったそうなんです。そんな苦々しい思いでいる時にベルリンで同胞の家に行って、初めてそこで太極旗を見たということを知って、意外に思いました。そしてその頃は、どうして太極旗を見る機会がなかったんだろうかと考えてはみました。もちろんどういう形をして、どういうふうに描かれているものなのかということは知っていたけれども、実際に自分で触って客観的に太極旗を見たのが初めてだったんだと思います。私たちは普段、国旗が役所や学校に掲げられていたり、家に保管しているということもありうると思いますが、当時は日本に支配されていた時代でもあり、太極旗が掲げられていることもなかったでしょうし、家に保管しているのが見つかると危険だから、持っていなかったという可能性もあります。そういうことを考えたら、それもあり得るのかなと思いました。それでソン・ギジョンさんは、ベルリンの同胞の家で初めて太極旗見て、大泣きしたそうです。メダルを取ったのに、心は悲しくて、そんな状況で太極旗を見て、感情が高ぶったんでしょうね。
―本格的なマラソン映画を撮ってみたいとおっしゃっていた監督が、今回ついにマラソン選手の物語を描かれましたが、監督の考えるマラソン映画の魅力とは何ですか?
マラソンや走る競技の魅力を私に植え付けてくれた映画が、1981年の『炎のランナー』です。その映画がきっかけで、人間が何の道具も器具も使わず、身一つで走るというこのスポーツの行為自体がとても魅力的でカッコいい、という印象が植え付けられました。それ以降は、最も人間の原初的な運動だが、最も人間的で、最も個人が自身の内面と戦うそんなスポーツであると同時に、実際この42.195kmというのが、結局は個人の人生と同じなのではないか、とも思えてきて、マラソンの魅力にハマってしまったんだと思います。おそらくこういった過程があって、この作品を撮ることになったのだと思います。
―ただ走るというシンプルなことを、ここまでドラマチックに演出する秘訣を教えてください。
私は今まで2本の戦争映画を撮っています。戦争映画の撮影では、当然戦闘シーンをたくさん表現しますが、漠然とただ敵と味方または味方と敵が、お互いを殺すために戦う行為であるように見えますが、その中には確実にドラマが存在しています。ですからそれはひとつのアクションだけでなく、そのような戦闘や戦争の状況でも、全てのものにはドラマがあり、その中にあるドラマが面白ければ、その戦闘シーンが少し長くても退屈しないし、そのドラマが面白くないとその戦闘シーンも面白くないんです。
私は作業をしながらそんなことをたくさん感じたので、マラソンも同じだ、これがただ単にほかの人々と競争し、1位になるために走るその行為だけでは、決して面白くなることはない、何とか私がその戦いの起承転結とドラマをよく表現して、その戦い自体も興味深くなるようにすれば、20分のマラソンシーンも、面白いマラソンになるのではないか、と考えて構成していきました。
―実際に走るシーンがたくさんありましたが、撮ってみて難しかったことなどはありますか?
ボストンマラソンのシーンは、もともとボストンで撮影できたらいいと思っていたんですが、撮影時期が季節的に合わなかったことと、コスト的にも負担が大きく、ほかの場所を探すことにしました。オーストラリアのメルボルンとその周辺の都市で撮影をしたんですが、短い限られた時間の中で完成しなければならないので、時間が足りずに、その圧迫感とストレスが大きかったです。オーストラリアで10年ぶりの大きな山火事も起きてしまい、全体的に天気が悪かったんです。実際、私がその場所を選んだ理由も、オーストラリアの日差しと様々な自然の風景がとてもいいので、それを画面に入れたかったんですが、実際は日差しも足りなかったし、空気もすごく悪かったので、選手たちが走る時に呼吸するのにも支障があって、そのことが思い出されます。
―時代を感じさせるセットや小物などがたくさんありましたが、特にこだわったものなどはありますでしょうか?
こういった近代・現代を背景にする映画やドラマを撮る時はいつも悩みます。日本もそうだと思いますが、韓国もオープンセット場には限りがあります。それが例えば1940年代を再現したセット場ではなく、ただ1960年代、1970年代を背景にしたセット場ならば、それをいくつか改修したり補修したりして1947年に合う状況に変えるとか、そういう現実的に劣悪な状況があります。1947年は、特にドラマや映画であまり再現されていない時期だったので、これをどのように忠実に再現するのか、ということのために美術チームとCGグループと一緒に、特別多くの意見交換をして、人が見た時に、これは1947年なのか1967年なのかはっきりしないような、その時代に特化されていない美術はできるだけ避けるようにして、誰が見ても1947年だと分かるように集中しよう、ということにしました。国内の部分もたくさん神経を使いましたが、ボストンのシーンでも、その当時の建築様式や全体的な色合いなどのディテールや小物にも気を使いました。
(完)
戦争のような状況下が生み出した出来事で、自分が生まれた国の国旗を掲げられず、自分が自分であることが認められないようなジレンマ、そしてその歴史を大きく変えていく実話を描いた深く考えさせられる作品ではあるが、最後は無条件に選手たちを応援したくなり、スカッと爽快にさせてくれる作品でもある本作。特にボストンマラソンのシーンは壮大なので、ぜひ映画館の大きなスクリーンで堪能してほしい。
監督・脚本:カン・ジェギュ
共同脚本:イ・ジョンファ
出演:ハ・ジョンウ、イム・シワン、ペ・ソンウ、キム・サンホ、パク・ウンビン
2023年/韓国/108分/スコープ/5.1ch/日本語字幕:根本理恵/G/原題:1947 보스톤/配給:ショウゲート
1947boston.jp/
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8月30日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開